Mar 14, 2010
隣の家の少女
交通事故で両親を失った姉妹が引っ越してきたその夏。
少年が淡い恋心を抱いた可憐な少女は、夜の観覧車で呟いた。
「世界がすべて見えそうね」
郊外の閑静な町は、けれど少女に新しい世界や眩い未来を見せることはなく、姉妹を引き取った伯母と少年たちの狂気に覆われてゆくことになるのだった。
アメリカで実際に起こった少女監禁、バニシェフスキー事件をもとにした凄惨な物語であれば、ホラーやスリラーに分類されるのはもっともですが、これはむしろ青春映画。
しかし、少年だった日々を懐かしむことなど決してできない、悔恨の念に囚われ続ける中年男性の追憶が描かれる物語はただただ不快、観客には忍耐力が要求されるかもしれません。
監禁と凌辱、拡散する暴力。
伯母は少年たちにビールを、背徳を植え付けて、そして蝕まれる倫理観と崩壊する情緒。
そう、この作品がひたすらに描いているものはリアル、迷走する現代社会の暗喩とも言え、その先にはたして救いはあるのか。
「あなたは夢だと思った」
傷ついてゆく体と心、逃げ出すことのできない地下室の絶望は、警察が踏み込んで悪は裁かれて、メグとデヴィッドにはほんの僅かだけ言葉を交わす時間があったから、おそらくは。
だから原作であれこの映画化であれ、観客にもうひとつ要求されるものは想像力だと思うのです。
それは、生涯癒えることのない傷を負ったデヴィッドの心を思い、すぐそばにある狂気に揺らぐことのない強い意志。
そして、メグが遺した「気持ちが大切なの」という言葉が儚いままでないことを。
隣の家の少女 Jack Ketchum's The Girl Next Door
2007年 アメリカ (2010年日本公開)
配給 キングレコード+iae
製作 ウィリアム・M・ミラー アンドリュー・ヴァン・デン・ホーテン ロバート・トニーノ
原作 ジャック・ケッチャム
監督 グレゴリー・M・ウィルソン
出演 ブライス・オーファース ダニエル・マンシェ ブランシェ・ベイカー グラント・ショウ