May 10, 2006
犬威赤彦「幻想主義」
嗜好としてのファンタジーは、なるほど、モラトリアムの香りがしないでもないなあと、読み始めてすぐまず感心。
映画館での出会いや、恭一が母親の写真に話しかけるシーンなどは「いかにも」だけど、こういうのは嫌いじゃないし、理子が日常生活の中で感じている居心地の悪さをキッチリと描きながら物語が進むのは、うん、いいカンジだね、と思ったり。
そして、ラストが「冒険の旅」であることも、王道とはいえ無理にヒネる必要などないのだから上々ではあるのですが、そこへと至る中盤の山場、テーブルトークRPGのシーンについては読む人によりけりの感想になりそうだなあと思うし、さらに言えばこの作品の評価を左右してしまうことになるのでは、と。
ほとんどの人がプレイしたことなどないであろう世界に、物語における重要な意味を持たせるのなら、読者をとにかく引きずり込まなければならない、その覚悟および力量が必要であるはず。
もちろん、嗜んでいる人であればまた違った感想になるのでしょうけれど、自分の場合は読んでいてどうにも醒めてしまったというか・・・
また、いつものことであるとは言え、全体を通して台詞やコマ割りに凝りすぎている点も、物語が展開する上でのリズムを徒に悪くしているだけなのが気になるところ。
まあ、あとがきやとらのあなのメッセージペーパーにある通り、完結するまでの二年半、難産を重ねたであろうことを考えると、そう酷評するのもどうかという気はするし、この作品や「こみっくパーティー」を踏まえて、またセイシュンな物語を描いた場合にどのようなものになるか、注目したいとは思います。
しかし、現時点ではいかに「MURDER PRINCESS」が、その作風に相応しい物語であることか・・・ それもまた、この作品を読んでの感想ということになりますね。
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