Mar 5, 2006
しおやてるこ「チョコレート」
田舎の中学生、ユキヒロと、彼が憧れている東京からやってきた転校生のハルコ。
その恋の物語というよりは、東京との、そして少年と少女との「距離」の物語と捉えた方が適切であろうこの作品は、
「でもきっと・・・ 椎名ならダサイ制服もダサイヘルメットも似合う」
少年のそうした他愛のないモノローグも心地よく、また、携帯電話が繋がりにくい部屋の中で、
「さびしいよ。東京から忘れ去られていく感じ・・・」
と、悲しむ少女のこころの襞をゆっくりと、そして清冽に描きながら進んでいきます。
そして、遠くを見つめる少女が描かれている扉絵、少年が東京へ向かう電車を眺め、その音を聞く物語のはじまりの帰結として、「東京に行こう」と二人が電車に飛び乗るクライマックスへと至ることになり・・・
はたして彼らの思いのその先にあるものは、ハッピーなものなのか、それとも悲しい別れなのか。
読み進めていく中で、ちょっとしたスリルのようなものがあり、そしてそれは物語の作り手が、いま、そのときの登場人物を肯定するのか否定するのかに委ねられるわけですが・・・
そうした点で、ラストはちょっと弱いかな・・・という気はするし、脇役の描写をもう少し丁寧にした方が物語により深みが増したろうにと思ったりはするものの、油断して読むとその出来映えにびっくりすること請け合いの傑作であると言えるでしょう。
■ しおやてるこホームページ・しおちん http://www2u.biglobe.ne.jp/~shio-x1/
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