Dec 5, 2005
西島大介「ディエンビエンフー」
ステップを踏むように殺戮を重ねる彼女のステージは、1965年のベトナムだった。
「世界一かわいい、ベトナム戦争」というコピーとは裏腹に、過激な殺人描写とシニカルな視点から描かれる戦争の狂気。
「ベトナム政府軍でも解放戦線でもない第三の存在、農民によって組織された精鋭特殊部隊」というまことしやかな噂が米軍内で囁かれるも、一個中隊を全滅させる力を持っていたのは十一歳の「姫君」。
狂気の中、ただひたすらに躍る彼女は可憐ですらあり、だからこそ従軍カメラマンの少年のハートには火が点けられて、そして「姫君」もまた少年を見つめる。
狂気と正常。
いつかお互いを知るとき、そこに在るものは何か。
また、もうひとつの狂気、「ツマンナイ・・・ もう少しマシな戦争をやろう!」と、戦地をクルーズするティムと「姫君」の来るべき邂逅のとき、そこで少年は何を見るのか。
「馬鹿みたいな嘘」ばかりを描くことで、まともな戦争の物語になるかもしれない。
西島大介さんのこの試みがどう映るかは読む人次第でしょうけれど、戦争の愚かさや悲劇といったいかにもなメッセージ性が皆無であることも清々しく心地よい、いまいちばん完結が待ち遠しい傑作です。
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