Jul 18, 2005
泥の河
(小栗康平監督作品集 DVD-BOX)
決して裕福ではないものの、食堂を切り盛りしている両親のもとに生まれた信雄と、母親が体を売って生計を立てている廓船で暮らす喜一と銀子。
少年たちのひと夏の出会いと別れを静謐かつ鮮烈な映像で描いた、名匠・小栗康平の第一回監督作品。
澱んだ河の流れにも似た昭和三十一年の大阪の街を舞台に、戦争が大人達の心に残した傷を織り交ぜて「時代」をも描いたその清冽な物語世界は、二十年あまりの時を経た今もなお色褪せることはありません。
晋平が信雄を連れてかつての恋人に会いに行くといった、宮本輝の原作にはないエピソードも物語に深みを与えているし、喜一の歌う唱歌「戦友」は、映画としてそのシーンを目にすると活字に比してより胸に迫るものがあるような気がします。
そして、少年たちが違う世界を垣間見てしまったことにより抱く畏怖、あるいは悲しみと、やがて訪れる別れの時。スクリーンの中に溢れるその情感と哀切は、必ずや観る者の心に深く突き刺さることでしょう。
また、アキバ系を標榜する当ブログとしては銀子タソ(;´Д`)ハァハァと一応書いてみる上、確かにそういうシーンがあるために一部では有名な作品なのですが、不埒な動機で観る人の荒んだ心根も必ずや浄化するほどの名作なので心配は無用です。
ということで、今までDVD化されていなかった小栗作品が、いきなりボックスでまとめて発売されたことに狂喜したファンは多かった筈。
出荷数はさすがにそう多くはなかったのでしょうが、発売日の石丸電気・SOFT1では店頭在庫しかなく、いかに新作「埋もれ木」の公開に合わせたとは言えども、知名度はそれほど高くはないのだから大したもの。
同梱されている解説ブックレットも、小栗作品についてまとめられた読みものは入手しづらいことを考えるとかなり貴重。誰もが知っている監督、作品でないことから絶版となる危険性は高いでしょうから、発売される週にBS2がなぜか全作品を放映していたために買うのを躊躇ったファンも、確保するが吉でしょう。
ところで、7/15のNEWS23でおすぎが「人間の心の深淵はいいけど、世界が狭い」と、小栗作品について妙に辛辣な発言をしていたのですが、「邦画ニューウェーブ」と言われた同時代の監督たちが商業主義やコマーシャリズムの中で堕したこと、「死の棘」が1990年のカンヌ・グランプリを受賞したことなどを考えると(パルム・ドールじゃないというのは野暮ということで)、なんでそんなに必死に貶しているのだろうと不思議に思いました。
泥の河
1981年 日本
製作 木村元保
監督 小栗康平
出演 田村高廣 藤田弓子 加賀まりこ 朝原靖貴 桜井稔 柴田真生子