Jul 4, 2005
高橋留美子傑作集 赤い花束
「高橋留美子劇場」で唯一単行本未収録だった「日帰りの夢」(2000/5)をはじめとした、ビッグコミックオリジナルで発表された六作品を収録した短編集で、1999年7月の「専務の犬」以来実に六年ぶりの刊行。
「Pの悲劇」が1994年1月、そこに収録されている「浪漫の商人」が1987年7月の作品であることを考えると、「犬夜叉」世代がこれらの作品を読んだ場合どのような感想になるのかというのは興味深いところですが、さて。
高橋留美子についていま論じる場合、ありがちなのは「めぞん一刻」や人魚シリーズ、あるいはこうした短編作品を引き合いにして、「犬夜叉」を批判したりする、所謂老害。
絶対的な意味で「犬夜叉」を賛美するつもりはないのですが、しかしこの「大人のホームドラマ」と称される短編群についても「お礼にかえて」(1998/2)を境に、天才・高橋留美子らしからぬ出来であるような気がしてなりません。
個人的なベスト「茶の間のラブソング」(1996/2)のような感動もさることながら、「Lサイズの幸福」(1990/1)のエンターテインメント性に感心したり、「浪漫の商人」では「『めぞん一刻』みたーい(*゚ー゚)」と人物描写の上手さに嘆息したりと、あの手この手で読む者を楽しませてくれるのがるーみっくわーるど。
しかし今回刊行されたこの短編集は、「茶の間のラブソング」のプロットを焼き直しただけに思えてしまう表題作「赤い花束」(2002/6)をはじめ、そうした高橋留美子にしか描けない世界観がさらに喪失されている印象が拭えません。
「高橋留美子劇場」の中でも出色の出来映え、若き日への憧憬と現実を描いた「日帰りの夢」と、老人介護というよりは父子の繋がり、息子の心の救済を描いた「ヘルプ」(2003/5)は秀作だとは思うけれど、あとは・・・といった感じなのですが、それは勿論、彼女が日本のコミックに与えた影響を考えればこそ。
amazonのレビューも概ね好意的だし、確かに良作揃いなのでしょうが、この人の本来の力量を考えると・・・ その点を「犬夜叉」世代が誤解しなければいいのだけど、というのも読後の感想だったりします。