May 17, 2005
コミック版「電車男」を読み比べてみる
まずは原秀則・ヤングサンデー版。
帯で「青春の巨匠」と謳っている通り、二十年以上ラブコメや恋愛ものを描いてきた人の手によるものであれば、さすがにソツのない出来。
ただ、オリジナルの持ち味を殺さないように無難にまとめている点は評価されるべきではありますが、展開や台詞回しが幾多のラブコメとそう大差ないものに映る、つまりは新鮮味を欠き、ネット上で進行する純愛物語という特異性が喪失されている感も少々。
冒頭の電車も、冴えないけれどルックスそのものは悪くなく、ただ気が弱いだけでアキバ系に見えない点も気になるところ。
とは言え、やはり手慣れているだけあってエルメスの描き方はうまいし、スレの住人たちが登場するのが「贈られたカップはHERMES」という燃料が投下された時点という芸の細かさも上々。
2ちゃんもオタクの世界もよく分からないという人が読んだとして、一番楽しめるのはこれなんでしょうね。
道家大輔・ヤングチャンピオン版は、いかんせん絵が上手いわけでも味があるわけでもないのがまず損をしそうだなあ、と。
内容はオリジナルに概ね忠実で、いま勇気を出さなければ、自分を変えなければ・・・という電車やスレの住人の思い、想像していたイメージと異なる再会時のエルメス、スレッドに書き込まれたレスの数々、といった描写がしっかりとしているのでそう悪くはない出来。電車の変身ぶりも上手く描いていますしね。
しかし、エルメスの名台詞を徒にカットしているのがまず気になるところで、スレの住人たちの描写や描き文字がくどい、コマ割りやギャグのセンスも誉められたものではないといった点を考えると、この先の物語をどのように読ませてくれるのかが楽しみに思えない、というのが正直な感想。
ただ、第一話から第一巻最終話にかけて絵が結構変わってきている感じがするあたりから、そうした予想を裏切ってくれることをとりあえず期待しておきましょう。
最後に渡辺航・チャンピオンRED版。
三作品の中で絵柄や掲載誌がいちばんオタっぽいのもさることながら、描き方そのものもやはりどうにもマニア向け。
だからこそコミック化にいちばん似つかわしいとは言えるのですが、電車の狼狽ぶりの脚色がちょっと行き過ぎな上、エルメスにロリが入っているのってどうよ?という気もするし、また2ちゃんでの会話をAA(ギコのイラスト)で進行させるのも微妙。
しかし第一話の導入部、エルメス嬢と出会う前の電車=アキバ系オタクの生態の描写は、その後のストーリーに説得力を持たせる意味でかなり効果があると思うし、さらに第一巻最終話、エルメスを好きになってしまうかもしれないというくだりの描き方はかなり秀逸で、そこまでがバタバタということもあり、ちょっと不意打ちを喰らった感じ。
三月にとらのあなやメロンブックスでペーパーが配布されていたという営業努力はさておいて、オリジナルの持ち味をいちばん伝えられるとしたらこれなのでは、と個人的にもっとも期待しているのはこの渡辺版だったりします。
■ FONT>関連リンク
電車男 http://www.geocities.co.jp/Milkyway-Aquarius/7075/trainman.html
映画版公式サイト(@nifty) http://www.nifty.com/denshaotoko/